クライミングに行こう

2000年度に月報ケルンに掲載された特集記事をもとにしています。
Vol.1 哲学編

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その1 哲学編

昨年レスキュー講習を受けてから、セルフレスキューについて研究しています。クライミングの現場におけるレスキューとは事故が起こったときのロープワーク が主な内容となりますが、負傷者が動けない場合は大変困難なものとなります。実際のレスキュー方法を調べていくと、作業のしやすい状況、しにくい状況がわ かってきます。万一事故が起こってもレスキューのしやすい確保状態はどのようなものかと考えるうちに、事故が起こってからの対処以前により安全な(すなわ ち致命傷にならない)確保状態そのものを整理することが優先されると考えるようになりました。クライミングの安全はパートナ・チームによるところも大き く、チームとしての共通認識をある程度統一しておく必要があると考えます。当初レスキューの読本としてまとめようと考えたのですが、内容的に難しくかつ、 それ以前に習得すべき内容が多大であることに気づきクライミングの基礎読本としてまとめるべきと判断しました。

と、いうわけで、これからシリーズでクライミングにおける安全性、特に最新の確保技術について論じていきたいと考えます。テーマとすべき内容は安全につい ての考え方、確保の基本と応用、新旧確保技術、そしてセルフレスキューへと繋げていきたいと考えています。ここでは登る行為そのものではなく、確保技術に 焦点を当てていますのでご了承ください。新しい技術や方法についても積極的に論じていきますので、疑問や異論もあろうかと存じます。問題提起ならびに議論 の話題提供となれば幸いです。

言葉については基本的に現在主流となっている英語を使用するものとしますが、一般的に流布しているその他の外国語があれば必要に応じて解説を入れます。


その1)哲学編しゃれて哲学と申しましたが、要はクライミングにおける安全に対する考え方をまずは整理してみたいと考えます。

まず押さえておくべきことは「クライミングは本質的に危険な行為」と いうことです。昨今のフリークライミングブームは多くの開拓者の努力と安全意識の高まりによって、強固なボルトに代表される比較的安全と言われるクライミ ングの場が提供されてきました。「クライミングは安全だ」と強調する人も居ます。しかしながら、確実な確保技術とクライマ自身の適切な判断なくしてはその 安全性ははなはだ疑問です。本来危険という場から始まって、如何にその危険を避け安全を維持するかを考えるべきです。基本となるキーワードを2つ挙げると すれば「冗長性」「簡易性」に尽きると考えます。

冗長性とは、簡単に言えば、二重三重の安全対策が考慮されているということです。言葉を変えると、ひとつのものに頼った確保システムは危険 です。たとえば、ひとつの残置スリング(経歴がわからない)やひとつのピトンやボルトをアンカーにしてトップロープをセットするなどの行為は現在では即危 険行為とみなされます。また、万一失敗しても致命的なトラブルにならないように、あるいは容易にリカバリ(復旧)ができるように最初からバックアップを考 えたシステムを構築すべきです。いまから30年以上前にアポロ11号が月に降り立ちました。安全率を高めるために二重三重の措置が取られており、信頼性を 高めています。仮にひとつのシステムの信頼性が99%で3つの冗長系をなしているとすると総合的な信頼性は  (1-0.01x0.01x0.01)=0.99999999.9999%となります。言い換えると百分の1の危険率が百万分の1になります。

簡易性とは手順や方法が単純で覚えやすく、間違いを犯しにくいということです。しかしながら、これには落とし穴が多く存在します。「人は必ず過ちを犯す」と いう前提に立って入念なチェックを行い、間違いやすい方法、危険が起こりうる方法は排除し、より安全な方法を取るべきです(かつ冗長性を維持する)。職人 技のような高度な技術をマスターしなければ機能しないようなシステムは基本的にとるべきではありません。そしてその技術は常に進化しているという理解で改 善していく姿勢が必要でしょう。

このように考えていくとクライミングそして確保システムは極めて知的好奇心を掻き立てるゲームでもあります。最後に一言、クライミングは自己責任のスポーツです。他人任せにしないで自分の目を養いましょう。他人のセットした支点やシステムに疑問があったら質問しましょう。どうしても納得がいかなかったら改善してもらうか登るのを止めましょう。大怪我してから文句をいっても遅いです。


次回は近年著しく進歩したクライミングに不可欠な道具について論じたいと思います。
(文責 重川)

Vol.2 基本ギア編

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その2 基本ギア編

  さてクライミングを始めようとしたら、最低限必要なものはなにか。それは以下の4点でしょう。
      ① クライミングシューズ
      ② ハーネス
      ③ 確保器・下降器
      ④ 環付カラビナ

  山道具屋にいけば非常に多くの種類のものがあり、選択に迷うことでしょう。お店の人によく相談して買えばよいのですが、当然あなたのクライミングスタ イルがわからなければ最適の道具をすすめるのが難しいのも事実です。ここでは基本であるフリークライミングを始めるにあたって最低限かつ長く使えるという 前提でポイントを述べることにします。

1)クライミングシューズ Climbing Shoes

ファイヴテン ニュートン
  最初に購入する靴は長く履いても足が痛くない程度のものにしましょう。いわゆるアルパイン系のものを選んでおけばアルパインルートやマルチピッチなど の屋外でも対応できます。インドア・シングルピッチのハードフリーしかやらない場合にはややパフォーマンスが落ちるので後で不満を覚えるかもしれません が。靴の場合は個人によって合う合わないがありますので、お店でいろいろ試して見ましょう。


2)ハーネス Harness
ペツル ボニィ

   必ずレッグループのタイプを選びましょう。いわゆるトロールタイプ(ウィランス2000など)のシットハーネスは雪山などではアイゼン を履いたまま付けやすいなどのメリットはありますが、垂壁では落下時反転することが知られており危険ですし、ぶら下がったとき快適ではありません。クライ ミングジムでは使用を断られる場合もあります。

フリー用では男女でモデルが異なるので注意してください。女性用は股上が広くウェストベルトが細めに作られています。ペツルには色もおしゃれな女性用モデルが多いようです。サイズも各種ありますので必ず試着しましょう。
ボニィ(右図) は女性向けにダブルビレーループを採用し、股上の深さを2段階に調整可能。
ブラックダイアモンド・メントール などはレッグループの部分が調整可能なので冬山・アイスクライミングにも使用できるオールマイティのモデルです。


3)確保器・下降器 Belay Devices, Descender
いろいろなモデルがでていますが、確保器としてはチューブタイプのものが扱いやすいです。ひとつ買うなら、もうこれしかないでしょう。
ブラックダイヤモンド・ATC :初心者からベテランまで操作性のよさと信頼性でもっとも広く使われている確保器。このタイプの中では最軽量。下降器としてもロープがキンクしにくく、エイト環より扱いが簡単。最近いろんな色がでています。


ただし、ATC は冬の登攀用としてはお勧めできません。ホールが比較的小さいので手袋をしたままロープを押し込むのにやや苦労します。特にアイスクライミングや湿った雪で使用した場合にはロープが凍りついてホールに入らなくなる可能性があります。

2001年に新発売されたペツルの ルベルソ はホールが大きいのでこの点は改善されています。また、セカンドを確保する場合にセルフロックのモードで使用可能ですので、3人パーティでセカンド2人同時に登るような場合に扱いやすい。
http://www.alteria.co.jp/Sport/D15.htm

4)環付カラビナ Locking Carabiner 
ここで紹介するものはハーネスのビレイループに付けて使用することが目的ですから、洋梨形の大型のものを選んでください。  大きく洋梨形のものは上部のアーチが大きいので、その部分でロープに抵抗を与える使い方(ミュンターあるいはイタリアンヒッチ)を行う際にゲート部で摩擦 を与えることなく使い易い。小さいものは複数のロープやスリングなどを入れにくいし、特に手袋を使うときは操作が煩雑になります。
ペツル ウィリアムボールロック:オートロック機構を備えたロックカラビナ。緑のボールを押さないと開かない2重安全設計。

  上記4点があればとりあえずシングルピッチ(対する言葉はマルチピッチ)のトップロープでのフリークライミングはできます。あとは追々揃えていけばかまいません。
(その他のギア)

5)セルフビレイロープ(スリング)+カラビナ Self-belay Rope, Carabiner インドアやシングルピッチのトップロープでは必要ありませんが、沢登りやマルチピッチでのセルフビレイ(自己確保)に最低1組は必要です。懸垂下降の準備にも欠かせません。手持ちのスリングをその都度ハーネスにつけるよりも、専用のスリング(独シュリンゲ)をあらかじめビレイループ(ハーネスの前にある小ループ)にガースヒッチで取り付けておくとすぐに便利です。他端にはカラビナをつけておきます。(スリングの自作の仕方は後述予定)

6)チョーク・チョークバッグ Chalk, Chalk Bag<
インドアを含むフリークライミングでは滑り止めにチョークを使いますのでチョークバッグチョークは少し登れるようになった ら買ってもいいかと思います。特に夏場は手に汗がついてホールドが滑りやすいのでチョークが欲しくなります。最初に買うチョークは小袋に入ったものにして ください。チョークを粉の状態で直接チョークバッグに入れると飛散するのでの禁止されているクライミングジムもあります。手の大きさにもよりますが、あま り小さなものは手が入りにくいです。

7)ヘルメット Helmet
 言うまでもなく頭部を保護します。インドアやフリーのゲレンデでは使いません。
(文責 重川)

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Vol.3 ロープの結び方初級編

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その3 ロープの結び方初級編
今回はビレイに不可欠なロープの結び方について述べます。

ロープの結び方にはその状況・目的によってさまざまなものがあり、それぞれ利点欠点があります。結び方を覚える際にはその用途をおさえて起きましょう。レ スキューを行うにはかなり多様な結び方を習得する必要がありますが、今回は通常のクライミングで頻繁に使われる基本の結び方を整理します。

1)8の字結び Figure Eight(中間)

メインロープの中間にループを作るものです。ひとえ結び(フューラーノット)も同様の機能がありますが、8の字の方が解き易いとされています。できたループにカラビナをかけて使用します。

2)8の字結び Figure Eight Follow-through (ハーネスへの取り付け)

出来上がりは前記と同じですが、こちらは末端で存在するリングにロープを通してから結びます。ハーネスにロープを結ぶときにもっぱら使われます。結び終わったら必ず結び目を整えて、間違えがないか確認しましょう。最後にひとえ結びで末端処理します。上記の絵ではわかり易いように8の字と離していますが、字際にはぴったりくっつけます。そうしないと緩みます。

3)クローブヒッチ(インクノット)

カラビナにセルフビレイを取るときに使う。緩めて長さを調整するのも簡単。ここで図示した方法は両手で結び目を作る必要があるが、カラビナにロープをかけた状態から片手で結ぶ方法があるのでこれも習得してください(下図)。






4)ロープスリングの作り方
スリング(独シュリンゲ)はクライミングのあらゆる場面で活躍します。補助ロープを基準寸法の2倍に結び目分の30cmを加えた長さだけ用意する。基準と なる60cmのスリングを作るには(60x2+30)=150cm の補助ロープが必要です。太さは6mmが基準ですが、プルージックやオートブロックな どメインロープに絡げて使用する場合は5mmの方がロックしやすい。結び方はダブルフィッシャーマンズ・ノットを使います。



テープスリングを作る場合にはリングベントを使いますが、最近はあらかじめループに縫い合わせたソウンスイングが売られていますので信頼性的にも市販のものをお勧めします。(一般に丸い補助ロープのスリングよりもテープの方が摩擦に強い)
(文責重川)
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Vol.4 ビレイの基本編

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その4 ビレイの基本編

今回はビレイの基本について述べます。
クライマが落下したとき、ビレイヤはとっさの動作が要求されます。そのためできる限りシンプルな動作で確実に確保できる手段を取るべきです。
本題に入る前に言葉の定義を整理しておきます。

アンカ Anchor: 確保支点。ビレイシステムの基本となる絶対に崩れてはならない支点のこと。これが崩れたときはパーティ全体の死を意味するといっても過言ではない。通常複数のボルト・ピトンや強固な立ち木などが使われる。

ランニングビレイ Running Belay: リードを行う際の中間支点。衝撃が大きい場合には崩壊する場合があり、アンカとは明確に区別すべき。

衝撃荷重 Impact: クライマが落下した際にロープ他端や支点にかかる瞬間的な荷重。ランニングビレイには5mの落下で約400kg程度がかかる。

ボディビレイ Body Belay: 体につけたハーネスに確保器 Belay Deviceをつけて確保する方法。有効な衝撃緩和が容易に得られ、いまやリード・フォロを問わずビレイの基本形とされる。

1) リードのビレイ
従来からリードのビレイにはボディビレイが基本とされてきました。それはなぜか。理由は2つあります。1つは衝撃緩和が容易にできること です。人間の体はそれ自体が優れた緩衝体です。そのうえ、ロープの引かれる方向が上方である場合(そのようにシステムを構築すべき)ビレイヤは体が浮き上 がります。この浮き上がるという現象が衝撃緩和になっているのです。落下距離が大きかったり、体重差が大きいと上方に引き上げられますので、特に足場が悪 いテラスなどでは図に示すように下方にアンカを設置します。  リードのビレイの場合にいわゆる支点ビレイ(アンカに確保器をつけてビレイする)を行うことは明らかな間違いです。衝撃緩和ができないだけでなく、落下するとアンカより下方にあった確保器が上方に跳ね上がって落下距離を大きくしてしまいます。確保器の位置が大きく変わるということはビレイヤの予測を超えた事態に陥りやすい---とっさの確保動作が不確実になりがちです。


2) フォローのビレイ
  従来アルパインや沢登りではいわゆる支点ビレイが使われてきました。しかしながらスポーツクライミングの普及とともに現在ではフォロにおいてもボディビレイが主流となっています。必ず図のように一旦カラビナを介してロープの方向を反転してやります。このカラビナをディレクショナル・ビナDirectional Bina(日本では定着した呼び名はありませんが、反転ビナと でもいいましょうか)といいまして、フォロが墜落してもビレイヤは下方に引きずられずにすみます。このことは万一の事故の際のセルフレスキュを容易にする のです。60kgがハーネスにぶら下がることを想像してみてください。ボディビレイにする第1の理由は前述のとおり衝撃緩和です。第2に確保器・ロープの 操作性の問題です。アンカに確保器(ATC・エイト環)をつけてフォロを確保すると、ロープを止めるための引き手はロープを上方に引き上げなければなりません。これは人間工学的に極めて不自然な形であり、とっさのとき力が入りません。唯一この問題を解消できる確保器としてはゼベッタ・ブレーキがありますが、一般的ではありません。また、環付きカラビナだけで確保するムンターヒッチMunter Hitch(イ タリアンヒッチ)は引き手は下方になりますのでヨーロッパではよく使われているようです。ただし、ロープの出し入れはATCよりもやや煩雑にはなります。 さらにボディビレイを推奨する理由として、リードと同じようにビレイできるという単純性です。いつもと同じことをやる分には人間はミスを犯しにくいです。

昔から行われたフォロの確保方法としてグリップビレイというものがありますが、よほど緩傾斜の場合を除いては使用は止めましょう。これは手指の握力だけ でロープをロックするものであり、ロープの弛みが完全に無い状態でないと落下を止めることができません。少しでもロープが流れればたちまち手指を火傷してしまい危険です。緩傾斜でこれを行う場合でも必ず皮手袋をしてください。利点としてはロープの引き上げが早くできるので、セカンドが階段登りのようなルートに追随できる点です。中途半端な状況であれば代案としてセルフロック機能のあるムンターヒッチをお勧めします。
*ムンターヒッチMunter Hitch(イタリアンヒッチ、半マスト)







3)人工壁での危険
次にシングルピッチのフリークライミングの場合を考えてみましょう。スポーツクライニングの普及とともにいまやクライミングは人工壁抜きには語れなくなっ ています。もはや屋外のゲレンデに長期間通いつめる時代ではなく、短期間に集中的にトレーニングすることによってある程度のレベルまで一気に到達するよう になっています。
人工壁の特徴は「支点の安全性」と「足場の良さ」にあると思われます。そのため自然の岩場では許されないようなかなりいいかげんなビレイになりがちですが、そこに落とし穴があります。
壁から離れてビレイする
よく注意してみると、この事例は散見されます。特にランニングビレイを少なくとも2本以上とるまでは壁から離れてビレイすることはグランドフォール(地面に落下すること)の恐れがあり危険です。問題は2つ:
・ ロープの遊びが大きくなる
・ 横方向の力で引きずられる
  遊びが大きいとその分だけロープが伸びます。人間が落ちたときの衝撃はその人の体重よりも何倍も大きなものとなります。クライミングロープは元来衝撃を緩和するために伸びるように作られています。見かけでグランドフォールが有りえないように見えてもロープの伸びによって地面に達する可能性は十分あります。

  人間は2本足で立つ動物ですから、横方向の力には極めて弱いです。特にクライマとビレイヤに体重差がある場合には特に危険です。壁から 離れるということはロープが引かれる方向が横方向になって容易に引きずられます。そのためビレイヤが転んだり、壁に激突してロープを放してしまう事故が発 生しています。人工壁では通常地面にはセルフビレイのための支点がありません。第一ランニングポイントの真下で、しかもクライマが落ちても激突しない位置が正しいビレイヤの位置です。これによって自分の体重を有効に使って確保できます。

壁から離れたビレイの危険
 壁の方に急激に引かれて、壁に激突しそうになったためロープを放してしまう。ビレイヤの体重が軽い場合には特に危険



(文責重川)
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Vol. 5 トップロープの支点編

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その5 トップロープの支点編

今回はトップロープの支点について述べます。Vol.4で用語を整理しましたが、「アンカ」についてもう一度おさえておいてください。

アンカ Anchor: 確保支点。ビレイシステムの基本となる絶対に崩れてはならない支点のこと。これが崩れたときはパーティ全体の死を意味するといっても過言ではない。通常複数のボルト・ピトンや強固な立ち木などが使われる。

1) トップロープとは
トップロープとはシングルピッチのルートで終了点のアンカに設置したカラビナにロープを通し、常にクライマの上方にロープが伸びる状態で確保する方法で す。ロープにたるみが無い限り、クライマの落下はほとんどないため 、初心者の練習や難度の高いルートの練習などに使われます。

2) トップロープの支点
終了点には残置されたスリングや時としてカラビナがありますが、基本的にこれら残置物のみでトップロープをセットしてはいけません。必ず自前のスリング・カラビナを複数使います。残置物はバックアップとして併用することはかまいません。
基本思想として経歴のわからないものを信用しない。ボルト、スリング、カラビナはすべて複数にする(冗長性・バックアップ)。
  ゲレンデには非常によく整備された支点がある場合もあります。たとえば広沢寺の天狗岩中央ルートには右写真のような強固なものがあり、ワイヤでバック アップも取られています。一般にはステンレスのボルトが複数で成り立っているものはほぼ信用していいでしょう。強固に見える鋼製ボルトでも錆の著しいもの は岩の内部が腐って強度が落ちている場合があるので要注意です。

3) 荷重分散
トップロープに限ったことではありませんが、複数のボルト・ピトンなどを使う場合、荷重を分散させて支点破壊のリスクを減らします。2つの支点の場合は流動分散が 良く使われます。手順としてはまず、ボルトそれぞれにカラビナをかけ、スリングをかけます。下図のようにループの片側を1回捻ってから上下をロックカラビ ナでクリップします。こうすれば荷重の方向が変わっても荷重がよく分散されます。ただし、この方法の欠点として万一片方のボルト・ピトンが抜けた場合、他 方に衝撃荷重がかかることです。図内の5に示すのはその欠点を補う方法です(結び目で止まるため衝撃が小さくなる)。

流動分散












注意すべき点は2つの支点と中央のロックカラビナの角度です。この角度は40度以下になるようにしないと荷重を分散したことになりません。















4) ロックカラビナの使用


トップロープに話を戻すと、ロープを付けるカラビナには必ずロックカラビナ Rocking Bina環付きカラビナ)を使用します。無い場合には左図のように2枚のカラビナをゲートの向きを変えて使います。
普通のゲートのカラビナ1枚でトップロープ支点とすることは危険行為として禁じられています。ロープが跳ねて外れる事故が過去に起こっています。
(文責重川)
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